5月8日〜5月16日
青い海が見えた。真っ青な大きな海だ。
大地溝帯にできたマラウイ湖。僕が抱いていたイメージとは違った。住血吸虫の住む
非衛生的な湖ではなかった。こんなに青くこんなにきれいだとは思わなかった。
僕たちは朝7時のバスでタンザニアの町ムベヤを出発し、昼前には国境を越えた。しかし、国境を越えた気がしない。何かがガラリと変わる、そういうものがない。ただマラウイ湖だけがここがマラウイであると感じさせるものだった。(昭浩)
マラウイ湖の朝は高原の朝のごとく空気がきーんと張っている。僕たちは爽涼な森の湖でただぼんやり過ごす。
食事のとき町に出る。こんなところでも観光化は進んでいて、ツーリスト向けのレストランがあるということに驚かされる。マラウイを旅行する人なんてほとんどいないと勝手に思い込んでいた。
宿から少し歩いたとこにチカレビーチと呼ばれる白砂の美しいビーチがある。200mくらいの幅しかない小さなビーチだが、そこにはいくつかのコテージ風の宿とレストランがある。一見ビーチリゾートの趣だ。観光客は僕ら以外誰もいないようだが・・・
僕の想像とは全然違うマラウイがあった。(昭浩)
南へ向かうバスがあるという情報だけたよりにマラウイ湖に沿って南へと向かう。マラウイの情報はあまりないから手探りの旅だ。
バス停で本当に来るのかどうか定かではないバスを待つ。こんな時、いろんな人間が無責任にいろんなことを言ってくる。
「南行きのバスはもう出てしまったから今日はない。」
「こっちのバスなら4時間でサリマ(今日の目的地)に着く」
「今すぐ南のほうに向かうからすぐに乗れ」(でも結局すぐには出発しない)
「このバスの人は君たちをだまそうとしている。」そう忠告してくれる人もいる。
誰が正直者で誰がウソつきかわからない。だまされまいと慎重に考えて結局だまされてしまう。
「このバスはサリマまでダイレクトに行く」
その言葉を僕らは信じた。
しかし、乗ったバスは「乗客が少ないから」そんな理由のため途中で降ろされた。
降ろされたところでピックアップトラックに乗り換え。そのトラックもサリマまで行く、というふれこみだったが、ものの見事に裏切られ50キロほど進んだドワングワという町で降ろされる。窮屈な荷台ですっかり消耗した僕は、もうどうでもいいやとやけっぱち。疲れたから少しここで休もうと思っていると違うピックアップのおやじが僕らに近づいてきた。
「サリマまで行くからすぐに乗れ」
おやじに誘われるまま、また荷台へ(ちなみに映子はいつも助手席でラクチン)
その車もサリマへはいかず、途中のンコタコタという町どまりだった。
結局3回だまされ、4回目にようやく目的地のサリマに着いた。
ちなみにだまされたとは書いたが、どの車の人もサリマまで行かなかったときは、きちんと進んだ距離分の料金しか請求してこなかった。しかも、現地の人たちと同じ金額で決してボッてきたりはしない。そういうところ正直者であったりする。だから憎めない。
少し小高いところを走る道から見下ろすと、森の向こうにいつもマラウイ湖があった。荷台はつらかったがそこからの景色は美しかった。
小舟すら浮いていない湖にただ真っ青な水面が広がる。一本道を寂しそうに走る自転車。頭にカゴを乗せてのんびり歩くマラウイの女性たち。そんな素朴な風景がやたら心に焼き付いている。(昭浩)
アフリカのあったかハートというキャッチフレーズが付いたこの国で、私たちが出会った人たち。
●ジェームズ
彼は、木彫りのお土産物屋をやっている。場所は、サリマからモンキーベイに向かう途中の分岐点、モンキーベイターンオフと呼ばれるところだ。
ブランタイヤ行きのバスで、何とかそこまでたどり着いた私たちだったけど、そこからのアシがない。周りには何もないんだけど、ただおお土産物屋ばかりがたくさん並んでいた。近づいてきたジェームズを、私たちは怪しい客引きか何かだと思って、最初は無視しようとした。しかし、彼はきわめて友好的。お土産物を売ろうという気はまったくないかのように見える。
とにかくここに座りなよ。と、イスを出してくれる。「次の村まで自転車で送ってあげようか」と言ってくれたり、自転車タクシーと交渉してくれたり、とにかく親切。車が来るのを待っている間、彼と一緒にサトウキビをかじったり、お話したり、写真を撮ったり、住所交換したりした。そして、彼は、商品の一つを私にくれた。
●ジョセフとピーター
闇両替を持ちかけてくるジョセフ。ベニスビーチのバックパッカーズの客引き、ピーター。モンキーベイに着いたとたん、彼らに声をかけられた。
めちゃ悪いヤツじゃないと思う、けど、そういう類の人たちは、どうも好きになれない私だった。彼らは平気でうそをつく。「ここで待っていれば、車は来る。」と言った後に、「今日は日曜日だからもう車はない。」と言ってみたり。親切そうに近づいてくるけれど、結局は、金儲けの目的があってのことか、と思うといやな気持ちになるのだ。
●ジョン、ケンジ、などなどケープマクレアの客引きたち
バーベキューしよう、魚を焼こう、それから明日シュノーケリングに行こう、などといろんな誘いをもちかけてくる。だけど、なぜか信用できなかった。彼らが少年だということもあるのかもしれないが、それだけではないと思う。なんだろう?エチオピアのときみたいに、だまされそうな予感。結局全部断った。ジョンは一番しつこかった。小さな村で、泊まっている宿もわかっているので、宿の前で待ち伏せされたが。
●Mr. Stevens
私たちが泊まっていた、ケープマクレアの宿のオーナー。彼は、魂の抜け殻のようだ。何も話さない。私たちを見ても、微笑むことも、挨拶することもない。何があったのだろう?疲れてしまったのか、年のせいなのか、わからないけど、何だか寂しさを通り越して、怖い気がした。彼が、この村を象徴しているのかもしれないと思った。
ケープマクレアに着いたときはマラウイ湖で潜る気はあまりなかった。ただ、オッターポイントに行けば、カワウソが見られると思っていたので、歩いて見に行くだけでいいかなと思っていたのだ。ダイブショップで聞いてみると、オッターポイントには、カワウソがいないらしい。それなら、ダイビングでもしてみるか、という軽い気持ちで、1本潜ったのだった。
ダイブマスターのパトリックとボートでマラウイ湖へ。バックロールで3人一緒にエントリー。ちょっと緊張気味。シュノーケリングに替えてみたら、水飲んじゃった。潜行はスムーズ。でも、透明度悪ーい。魚は、わりといた。淡水魚なので、今までに見たことのない魚ばかりだった。だけどやっぱり、視界があまりよくないのと寒いので、早くあがりたいなと思ってしまった。マラウイ湖のダイビングは、1回で十分だな。マラウイ湖は外から見たほうがきれいだ。外から見ているとあまりにきれいで、中ものぞいてみたくなるけれど。(映子)
一日何本あるのかわからない。いつそれが来るのかわからない。そんなピックアップトラックを朝の6時から待っている。待っていてもなかなかやってきそうにないので朝飯でも・・・と食べ始めたときに車はやってきた。
すでに荷台には人がいっぱい。助手席については言うに及ばず。僕たちは振動が激しく砂埃や排気ガスが大いに舞う最も乗り心地の悪い最後部の荷台のヘリにおしりを落ち着かせる。車から放り出されないようしっかりヘリにつかまり前傾姿勢を保つ。砂埃と排ガスが目と喉を刺激する。そのうち不自然な体勢を維持しているため足の筋肉の一部がつりそうになる。あーいやだ、いやだ。ピックアップの荷台はきらいだ。
ゲロゲロ。僕の隣で座っていた女性がゲロった。その真後ろにいた僕は危いところでゲロ汁を浴びるという惨事はまぬがれたが、本当にピックアップの荷台はもうイヤだ。
そのピックアップの終点であるモンキーベイに着くと、僕たちの今日の目的地であるマンゴチ行きのピックアップがタイミングよく客集めをしていたが、僕たちは客引きの叫びを無視して、マンゴチへ向かうバスを探した。
探した結果、ピックアップからトヨタハイエースへグレードアップ。マンゴチまでは少しはまともな移動になりそうだ。そのハイエースで客を集める婆さん、これがやたら押しが強そうで、肝っ玉も太そうな顔をしている。しかも爆発したアフロヘア,まるで怒ったエリマキトカゲ。ケチで強欲なエリマキトカゲは客を目いっぱい乗せたいらしく、きゅうきゅうにつめこむ。アフリカの常識を超えた詰め込みかたで、ゾンバに着いたとき僕はフラフラ、車の床におかれた僕の荷物も踏まれまくり。なかの蚊取り線香はボロボロになってしまった。
ここ最近ハードな移動が続いている。いつまで続くのだろう。(昭浩)
アフリカの大地を上から眺めてみたい。そう思ってゾンバ高原へやってきた。
出だしから坂道だった。大統領官邸前をとおり、さらに登る。私たちのように登っている人は少なくて、降りてくる人が多い。時々挨拶するけど、無視されることもある。途中から、「ハロー」をやめて、現地の言葉、チェワ語で「モニ」ということにした。すると、「グッドモーニング」と間違えて英語で返してくれる人もいた。
「ZOMBA outer slopes」という看板で曲がってちょっと近道なのか、森の中の道に入る。景色は少しずつ良くなってきた。でも、登り登りで疲れる。やっと目的地らしき、山の上の小屋が見えたのだけれど、そこからが長かった。道は山の周りをぐるっとまわって、ダムに到着、さらに矢印に沿って高原の中へと入っていく。すると、山の中に突然、ホテルメリディアンが現れる。ホテルはきれいだけれど、景色は思っていたほどではなく、ホテル前にたむろしている木苺売りの木苺も高くて買えず、そのままうなだれて帰ることにした。
帰り道のほうが景色は良かった。湖とその中と後ろにある山みたいな島みたいなものも見えた。山を降りるにつれ、風景は近づいてくるので、いい感じになる。なーんだ、そんなに高いとこまで登らなくてもよかったんじゃん。そして体はものすごく疲れていた。久々のトレッキングで足が棒のようだった。今日は特に収穫なし、そんな日もあるさ。(映子)
マラウイ湖のさらに南にあるリウォンデ国立公園に来ている。この国立公園内にあるムヴーキャンプは、きれいに手入れされた芝の庭にコテージがたっている。僕たちの部屋のコテージのそとにはすぐ近くにシレ川が流れ、その対岸の岸辺には数頭のカバが水の中で身を潜めている。鼻と目の部分だけが見えて、たまにウォーンウォンとそのうめき声をあたりに響かせる。
庭にイスを出し、遠くにカバを見ながら本を読んだり日記を書いたりしている。カバ好きの僕にとって、野生のカバとその場の空気を共有しながらこうやってのんびりと過ごすことはたいへんシアワセなことだ。
日記と読書に飽きた僕は映子を置いて単身ここのまわりの探索にでかけた。カバのウンコがたくさん落ちているところをみるとこのあたりにもカバがいるはず、そんな期待のなか少しぬかるんだブッシュのなかを歩く。
カバがいた!はじめは目を疑ったが100mくらい先で陸に上がって草をはんでいる。そのときの僕の気持ちの高揚といったらどう例えればいいのだろう。小さい子供が生まれてはじめて動物園にいったときと同じくらいの興奮を覚えていたのではないだろうか。
しばらくカバを見ていたかったが、こりゃ映子にも見せなきゃと思って急いでコテージのほうへと駆け出した。ほとんど全力疾走。
映子はすごいすごいと少しは感動しているようにも見えたが、僕からみればその感動のしかたには物足りなさを感じる。こんな近くで水中じゃないしっかりと陸上にあがったカバがいるんだよ、なのにどうしてそんなに落ち着いているのだ?そのときの僕のテンションが高すぎたのだと思う。
それだけではなかった。夕方レストランのあるコテージにいくと、そこにもカバがいた。はじめ、カバの置物かと思ったら、レストランの5mくらい先のブッシュからのそのそと芝の庭に出てきた。カバは一歩ずつゆっくりと歩を進めながら庭の芝草を食べ続け、僕たちとの距離を3mくらいにまで縮める。少しは警戒しているのか目だけはこっちのほうをちらちらと見ている。ときおり小さな耳をくるりとアンテナのようにまわす仕草がかわいい。これだけのカバの大接近遭遇に身悶えするほどの心の高揚を覚えぬ人間なぞこの世にいるのだろうか。
ここは人の生活する町からモーターボートで1時間もシレ川をさかのぼったところで、カバだけでなくいろんな動物が生息している。インパラやアンテロープはコテージの近くにいっぱいいるし、ここにくるボートから象の家族が見られた。その他、ワニやウォーターバックなどもいた。しかし、カバ以外については僕にとってはどうでもいいことなのだ。(昭浩)
・ ・・その日の夜・・・
夜中の3時ごろ映子に起こされた。
窓の外をみるとすぐ目の前にカバがいる。その距離1mもないところだ。月明かりのした、大きな巨体がムシャムシャ食べている。何匹かのカバがそのコテージのまわりを歩き回っては、芝草をはんでいる。静かな夜にいろんなところからムシャムシャと言う音が聞こえてくる。陽があたるうちは人間の世界であったその庭は、夜にはカバの世界となっていた。カバ世界のなかに僕たちはいる。
興奮して僕は朝まで眠れなかった。そのあともカバは僕たちのコテージの窓のすぐしたまでやってきた。手を伸ばせばそこにはカバの背中がある。
少しまわりが明るみはじめてきたので、おそるおそるカバを探しにいった。しかし、カバは見つからなかった。月光の中のカバたちはどこへいってしまったのだろう。コテージのまわりに残された糞だけがその存在を証明していた。もうすでにカバの世界が終わりそこは人間の世界になっていた。(昭浩)
リウォンデをあとにしてモザンビーク国境へと向かう途中のことだ。リウォンデの検問所でバスを待っているときアーミーに呼ばれる。ブシツケに荷物を見せろという。このテの国家権力にはおとなしく従うたちの僕はヘラヘラとあいそ笑いをしながら自分の荷物を開ける。それに対し映子はケンカごし。
「なんでわざわざ荷物見せなきゃいけないんだよ?」日本語でそういいながらニラミをきかす。
「どうせ中を開けたってロクに見やしねェんだろ」
アーミーはそのイキオイに押されて「ソーリー」と謝っているのである。
女は強いのである。(昭浩)